紫式部図2023年10月30日 00:24

箱書きがあり、大正12年に描かれた「紫氏作源氏之図」である。石山寺の土佐光起の紫式部図を筆頭に、谷文晁や錦絵の鳥居清長と、紫式部図は多くの画家に描かれている。明治以降でも上村松園作がある。いずれも余白を十分持たせた美しい品格の日本画となっている。タイプとしては、石山寺と月という風景のなかでの紫式部であるか、似絵という肖像画に繋がるものであり、明治以降は美人画に吸収される画風に大別される。いずれにしてもある意味描き尽くされた画題である。そのようななかで、春嶺の紫式部は、肖像画(美人画)でありながら、紅葉や御簾の画中絵も含めて細密画と言えるほどの出来上がりとなって、紫式部の過剰な十二単に収まらない衣の重層感、グラデーションにも見える文様の効果、そして美しいわずかに赤みが差した表情は、単純な言葉では語れない内面に届く美しさを持っている。松園の意思の表現でもある女性像、北野恒富の感情のベールを絵画とした女性像とは異なり、迫らぬ穏やかさというべき印象を与える。物語が絵画に時間の持続を与えているというべき春嶺の物語絵の代表作であり、物語が固定したものでなく、絵画から動き出す物語というべき姿を感じ取ることができるだろう。

追記
春嶺の師である深田直城の紫式部調書図があります。下記は石山寺での「石山寺と紫式部」展の出品目録です。寺崎広業、幸野楳嶺、上村松園、島成園、の紫式部図が展示されたようです。島成園の紫式部は見てみたいものです。
https://www.ishiyamadera.or.jp/cmscp/wp-content/themes/mymall/img/guide/event/shikibuten/shikibuten/shikibuten-2013-spring_list.pdf

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