代表作品12023年10月23日 23:12

源氏物語 第十帖「賢木」 
中宮の藤壺が光源氏から送られた紅葉に見入る場面となる。「賢木」の帖は、六条御息所の娘が、斎宮として伊勢に向かうにあたり、禊をしばらく行う嵯峨野の野の宮の場面がよく描かれる。すなわち、以前の恋仲で、すでに過ぎたことであるにしても、六条御息所との、別れを惜しんで、光源氏は野の宮を訪問する。そのとき賢木を御簾のしたより差し入れて、歌を詠む場面が源氏物語絵では一般的である。一方春嶺が描く「賢木」は、その後、桐壺院が亡くなり、悲しみに暮れて三条の宮邸(実家)に戻っていた中宮藤壺に焦点を当てる。藤壺との間に、不義密通の子まで作った光源氏が、会いたい一心で三条の宮邸に通うが、藤壺は拒み続ける。光源氏は藤壺への気持ちを紛らわすために、しばらく雲林院で、経を読み篭って見たりする。季節は秋で、紅葉が色づいて、あまりに美しかったので、ひと枝折って京に持ち帰り、藤壺に贈った場面となる。もちろん直接は渡せないので、手紙を藤壺の女房である王命婦に書いて、紅葉を届けてもらったという状況となる。源氏物語では紅葉の小枝に結ばれた手紙を中宮の藤壺が見つけて顔を曇らせるということになっているが、春嶺の紅葉の小枝には、それは見当たらない。手前の顔を伏せたのが、中宮藤壺であり、落ち着いた紫の色調の蔓状の花文様の衣を重ねている。藤の文様でもある。その横にいて様子を伺うのが、光源氏と藤壺の仲を取り持った王命婦となる。光源氏との不義密通をひた隠しての藤壺と光源氏の危うくも運命的な愛という源氏物語前半のコアの部分に挑戦したとも言える。
大正時代の作となるが、藤壺の困惑、すなわち過去の過ちへの悔恨が表されているように思える。鮮やかな紅葉、から深い藤の色への変容は見事な心理描写である。

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